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増田桃香ピアノリサイタル

2019年、私が所属していたハマ音合唱団の演奏会にゲストで来ていただき、大変美しいピアノを演奏してくださった増田桃香先生のリサイタルに行ってきました。

 

初めて先生のピアノを聞かせて頂いたのは、ハマ音が定演を前にソリストをお招きした時のプレ演奏でした、衝撃的ともいえるその音の美しさは、聞いていた団員をみな虜にしてしまいました。

 

今はハマ音を退会した私ですが、先生とのつながりはありましたのでチケットを入手し、指折り数えてこの日を待っていました。

 

今回のプログラムは、前半にラフマニノフの鐘と前奏曲、ショパンのノクターン2番、シベリウスの「樹の組曲」。後半はメトネルのピアノソナタ7番というものでした。ン?後半は1曲だけ?

 

ピアノはベーゼンドルファーのインペリアル。88鍵より下に更に9鍵増やして弦の本数を増やし、共鳴を豊かにしている特別なピアノだそうです。私も何度かこのインペリアルを鎌倉芸術館で弾かせていただきましたが、大きなピアノという感じで私には手に余るというか、仲良しになるのがちょっと大変なピアノではありました。

 

そのピアノによる先生のラフマニノフは、ダイナミックでありながらブリリアント。とてもメリハリのある演奏でした。また、ショパンはきらめき輝く宝石のような音で、ずっと聞いていたいと思うほど美しいショパンでした。

シベリウスは個性的でしたが、森の中にいるような空気感が感じられました。何か物思いにふけりながら一人森の中を歩く。そんな素敵な気持ちにさせてくれる演奏です。最終曲が少しジャズっぽくてとてもおしゃれな演奏でした。

 

そして休憩を挟んでのメトネル。普通ソナタと言えば3楽章形式ですが、このソナタは単一楽章、つまり1楽章しかありません。それがなんと30分も続く曲だったのです。しかも高度なテクニックを要し、止まることを知らない、つまり30分間ずっと高速で動き続けるような曲。こういう曲は初めて聞きました。まるで人の一生を音でずっとたどっているような、川の流れがどこまでも続いていくような感じでした。途中でいろいろなドラマが登場します。

この30分続く曲を見事に弾ききられた増田先生は、そのあとマイクをもつと息を弾ませて「30分マラソンした後のような気分です。」とご挨拶されました。

 

増田先生は若くて人当たりの柔らかい、とてもやさしい先生ですが、リサイタルではピアノを大胆にフルで鳴らして深いところから音楽を引き出す才能のある方でした。聞き終わった後になにか考えさせられる読後感のようなものが心の中に残り、惹きつけられます。「これからもゴールを定めずに頑張りたい」と仰っていましたが、これからの成長も見せていただきたい、ずっと応援しながらこちらも刺激を受けていきたい方でした。